11月13日 vsジェイルバーズ @十三  

 

私小説的試合レポート 

「我輩は鳩である」   文責:鳥目漱石

 

 我輩は鳩である。名前はまだ無い。どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。何でも気付けば薄暗い十三公園の噴水の周りでポッポッポッと仲間の鳩と共に奔放不羈に餌を啄ばんでいたものだ。我輩が住処としているこの十三公園には、隣に広いグラウンドがあり、その芝生で日向ぼっこをするのが、我輩の至福の時間である。そこで、我輩は初めて人間と言うものを見た。奴等は、我輩の幸福な時間と場所を何の迷いも無く邪魔し、荒らしていく獰猛な動物である。思いのままピイピイとグラウンド内を駆け回る小さい人間もいれば、何らかの一定の規則を以て、丸い球状のものを追いかけまわって、一喜一憂している人間もいる。何が楽しいのかとんと我輩には想像の及ばない所であるが、人間共は、この遊戯を「野球」と呼んで、毎日、飽きもせず球と戯れている。
 今日も、我輩が十三公園で、毎日毎日ベンチに座っている優しい部類に入る人間(別にそいつに情が移った訳では決して無い)から、餌を優雅に頂戴していると、向こうの方から9人の人間が近づいてくる。彼らは、以前、マイク・タイソンという人間の仮面をかぶった猛獣が、我々鳩を、右ストレートで捕まえたと言う忌わしき逸話を軽々しく話している。何と恐ろしい。すると、その中の一人、井上と呼ばれる比較的大きな男が突然、何を思ったか、我輩を捕まえようと、右ストレートをかまして来た。いきなりの異常事態に動転した我輩であったが、即座に餌を啄ばむのを中止し、華麗に飛び立って逃げてみせた。貴様ほどの人間に捕まる我輩ではないわ。人間とは何と愚かで暴力的なのだろうか。隙を見て、我々に襲い掛かる猫どもと同程度の阿呆である。うつけ者である。我々は穢れなき平和のシンボルなるぞ。公園に来たら、まずこの公園の主たる我々にたい焼きの一つでも黙ってくれてやるくらいの甲斐性はないのだろうか。真に遺憾である。
 そうして、ぷりぷり怒っていると、また小腹が減ったのだが、何も知らない同志達によって公園の餌が食い漁られたので、我輩は公園からグラウンドへ移動することにした。不届き者共の体たらくな姿を肴に餌を探すとしよう。
 そうこうする内に、野球が始まったようだ。
 まずは、不届き者、井上のいるスラッガーズというチームがグラウンドに散らばって大声を出している。個人的な意見を申し上げると、あのぎゃあぎゃあという声は、いつ聞いても好きになれない。特に、芝生の処に居座る三人は特に五月蝿い。五月の蝿よりも鬱陶しい。敵が近くにいないのに威嚇行為を行うとは、此れ如何に。人間とは摩訶不思議な動物である。
 で、肝心の野球の方であるが、初めから、スラッガーズは余り余裕の無い顔で、あたふたとグラウンドを右往左往している間に、敵チームの3人ばかりが、ぐるぐるぐると一周してホームベースへと戻ってきたようだ。鳩にちょっかいを出した罰である。天誅である。ざまあみろである。
 その後はスラッガーズの4番のゴメスというマッチョな大男が、その大柄な体に球をぶつけられて相手に憤って殴りかかるかと思えば、黙って一塁へ進み(その時、にやりと笑みを浮かべていたのを、我輩は見逃さなかった)、その後二塁から、牽制でアウトになり、すごすごと意気消沈して帰って来たこと以外、目を引くようなプレーも無く、我輩もさすがに退屈していた。試合もロクに見ずに、クックックッと餌を探して下を向いていると、斜め後ろから眼前に突然、何かが転がって来た。「餌!?餌かいっ!?」と思い、急いでその茶色い物体を事細かに見ると、それは驚くほど絶望的にただの石ころであった。「なんやこれ?」と思った途端、我輩の頭上から、石や砂の雨あられが降ってくるではないか。右を見ると、そこには、嬉々とした顔で、我輩の清潔な鳥肉に石をぶつけようとしてくるジェイルのファーストの姿が。スラッガーズを虐める事に飽きたのだろうか、その標的を我輩に180度転換してきたのだ。急いで飛び立ち、場所を移動している間に、我輩は悟った。人間とは弱い者を虐める事に限りなき喜びを感じる動物なのだと。何が起きても何を見ても動じずに、純粋無垢に餌を探し求めるこの素晴らしき精神を持った、我々鳩の爪の垢を煎じて飲んで欲しいものだ。
 野球も終盤に差し掛かり、グラウンドを占拠しようと涎を垂らして待っている、いつもの小さな人間達も大勢やって来た。スラッガーズは、芝生の処までも球を飛ばすことが出来ず、ほとんど見せ場も無く終わろうとしていた。クァアアと喉を鳴らし欠伸をするほど、暇を持て余していたその時である。打席には、如何にも野球職人といった顔をした「都瑠さん」と呼ばれる人間が放った球がベンチの後ろに居た我輩をもう少しで直撃しそうになったのだ。こいつも我輩の穢れなき体を狙う猛者かっ!!!とわなわなと身を震わせた。
 すると、その球を拾おうとした、鳩のようなぷりぷりとした体の人間が、突然、すってんころりんとこけたのである。しかもただのこけ方ではない。尻からである。確かに、彼のプレーを見ていても、その大きなおいどを持て余しているような動きに、我輩もはらはらしたものだ。きっとあれは、尻の中に、自分でも手に負えないほどの大量の言葉に出来ない思い、そうでなければ脂肪を、溜め込んでいるのであろう。

それにしても、あのこけ方。そのまま、マット運動の後ろ回りを始めそうな動きに、我輩、鳩であることも、人間に対する警戒心も、時間が過ぎていくことも忘れ、くるっぽくるっぽと笑ってしまった次第である。
 気付くと、太陽も紅くなり始め、西の空に沈もうとしている。闇が空を覆うと、この辺の人間は、むしろ昼よりも活動的になり、目が痛くなるような街で、ウハウハ言っているらしいが、鳥目な我輩は、迷子になり家に帰れなくなったり、捕食者に捕まえられる危険が高くなったり、何より家ではいとしのエリーが待っているので、暗くなると電光石火の速さで帰ることにしている。オーマイダーリン。野球はまだ続いているようだが、何の未練も無いし、この辺で、おさらばするとしよう。
 夕焼けの空を疾風のように飛びながら、何故か今日のスラッガーズの連中の事を考えた。明らかに劣勢であるのにも関わらず、強き者に立ち向かっていこうとする姿・・・・・・・。全く人間の気持ちとやらは理解できないが、スラッガーズの人間共を少し見直した気がする。そんな綺麗事は、漫画やドラマの中だけの作り話かと思っていた。うむ・・・・・・。

いかん、下らない感傷に巻き込まれてはならん。我輩としたことか。我輩を捕まえようとした井上という人間の罪は許すまじ。石を投げたファーストも許すまじ。我輩は、少しでも、彼らに同情の念を抱いた自分を軽蔑し、罵倒した。
 次、十三に来る時は、もっと強くなって帰って来いよ。我輩へのお土産を持って。

 

 


ジ 3030000 6
ス 0000000 0

1  中  松岡 中飛 遊安 三振 盗@
2  二  笠原 三ゴ 一邪飛 三ゴ
3 右→投 齊藤 遊ゴ 投ゴ 三安 盗@
4  遊  福井 死球 三失 三振 盗@
5  一  臼井 中飛 三ゴ 投飛
6  左  都瑠 三振 三振
7  捕  森岡 三振 投ゴ
8 投→右 久野 三ゴ 捕ゴ
9  三  北田 三振 三振

 

 

 

試合の内容を書かずに、ネタだけを書く。

コレ、ホントはダメね。