それぞれのマリナ戦

―みんなで白球を追いかけた、あの日―

文豪:福井康裕

 

1.プロローグ‐夢と現実‐

 

少年時代、僕らは何でも出来ると思っていた。

仮面ライダーに変身することも、宇宙飛行士になることも、世界を動かすことも。

僕らは、無邪気すぎるほど、何でも出来ると思っていた。

ご多分に洩れず、奥村少年(おくもん)もそうであった。

 

 

時は、おくもんが小学校4年生ときにさかのぼる。

おくもんは、逆上がりの練習をしながら、担任の先生に夢を語ったことがあった。

「僕、大人になったら宙に浮くッス!」

担任の先生は鼻で笑った。

「は(笑)!?」

 

 

時は流れる。

今やおくもんは成長し、大学生となり、病院の受付のアルバイトを始めた。

しかし、そこでおくもんは社会の厳しさを知る。

自給に換算すると500円程度という安価な労働力として、「急患あり、プリンターなし」という、極めて劣悪な環境の下での過酷な労働であった。

↑医者にムチで打たれ、労働を強要されるおくもん

 

 

ふっ。

おくもんは小学校4年生の頃に担任に語った夢を思い出しながら、今度は自分が鼻で笑った。

人間が宙に浮くことなんて出来っこないや。

今のおくもんにはもう分かっていた。

 

 

2.時代の変化

 

時は流れる。

時代は変わる。

ついに、あの北田がヒットを打った。

しかも、1本だけではなく、何と1試合2本も。

スラッガーズは祝福ムードで北田のヒットを受け入れた。

そう、一人を除いては…

 

時代は変わる。

いつの間にか、じい(じじい、GJ)は「mihimaru GJ」としてCDデビューしていた。

http://www.youtube.com/watch?v=7HWLXu9UTgs&search=%E6%B0%97%E5%88%86%E4%B8%8A%E3%80%85

J−POP界では、じいは北田より先にヒットを飛ばし、まさに気分上々↑↑であった。

しかし、野球でのヒットは3年目にして未だに飛ばしておらず、北田に先を越された。

焦りと、

悔しさと、

憎しみと…

様々な感情が混ざり合って、

じいは集合時間に遅刻した。

 

 

3.九人の侍

 

今日の相手は、スター・N技師さん率いる宿敵マリナーズ。

遠征先の瀬戸の球場に着くやいなや、N技師さんの丁寧な挨拶を受けるスラ。

そして、約20分遅れでmihimaru GJこと、じい登場。

こうして、スラナイン全員が集まり、瀬戸球場にウグイス嬢のコールが響いた。

1番 センター   TKG…ついにmixiを始めちゃった漢。理由は話題についていくため。

2番 キャッチャー 道齋…北田のヒットを一番喜んだ男。

3番 ピッチャー  久野…ついに自主休講カードを切った。カードの切り方が人生だ。

4番 ショート   福井…レポ担当。試合前に厄払いの付添いでお神酒を飲んでホロ酔い。

5番 ファースト  臼井…白井家が途切れ、臼井家が残ったことをアフターで激白。

6番 レフト    中尾…麒麟・川島に似ていると噂される男。

うーん…そんなに似てないわ。

 

7番 ライト    mihimaru GJ(じい)…手応えを掴み、引退を回避。

政治家としても活躍中。いのちよりライト守れ。

 

8番 サード    奥村(1回)…経済学部の後輩。返す返す山崎似。

9番 セカンド   おくもん…病院でバイトをする傍ら、サークルで野球もこなす。

※奥村が二人いるので、以下では特別な場合を除き、1回の方を「奥村」、2回の方を「おくもん」と表記する。

 

このようなメンバーでスラッガーズ×マリナーズの一戦が幕を開けた。

 

 

4.試合経過は淡々と

 

1回表>

高木氏、粘ってフォアボールを選び出塁。

続く道齋がライト線へ渋い当たり!これをライトが後逸し、ランナー高木氏長駆ホームイン!スラッガーズ1点先制!

その後、ランナーを二人溜めて、中尾の三塁強襲ヒットで2点追加!!

次打者じいは三振。初ヒットはお預けとなる。

とにもかくにも、スラ初回に3点先制。

3−0マ

 

1回裏>

今季初先発久野。制球定まらずノーアウト二塁のピンチ。

1アウト後、三塁ゴロが内野安打となる間に二塁走者がホームイン。

後続を打ち取り、マリナの初回を1点に抑える。

3−1マ

 

2回3回のダイジェスト>

・サード奥村、集中砲火を浴びるも全てさばく

・高木氏、センターから大声を出しながら二塁牽制を受けに来る

N技師さん、その高木氏のプレースタイルを全否定

・点動かず

 

このような紆余曲折があり、ついに「その時」はやって来た。

 

 

5.歓喜のとき

 

回は4回表。

臼井、中尾の連続三振の後、バッターはmihimaru GJこと、じい。

『気分上々↑↑』のサビに乗せて登場するじい。

Hey GJ!かませyeah!yeah!yeah!気分上々↑↑の〜♪

カウント2‐2と追い込まれる。

しかし、

歴史は動いた。

 

ボフッ!!

怪音を残して打球は三遊間を抜けた。

その瞬間、じいは叫んだ。

「よっしゃ!!」

 

じいの公式戦初安打が生まれた。

ファンは敵味方関係なく、スタンディングオベーションでじいの初ヒットに惜しみない拍手を送った。球場にいたみんなが彼の初ヒットに目を潤ませた。

当然、そのときに審判としてマスクを被っていた福井も、マスクで隠れていたものの涙を流した。

球場内が暖かい空気に包まれる中、後続が倒れて4回表が終了した。

 

 

6.おくもんの夢叶う

 

4回裏の先頭バッターの打球がおくもんの頭上を襲った。

おくもん浮くも取れず。

プロローグで散々おくもんの夢「宙に浮く」話をしたが、今日のおくもんの「浮いた話」はこれだけ。

 

その後、

ランナー満塁となり、「(自主休講)カードの切り方が人生だ」で有名なオダギリジョー似の形状のヒゲを蓄えた、ワイルドな久野のワイルドピッチで1点、続く打者のセンター横へのヒットで2点を献上。

この回3点を入れられ逆転を許す。

3−4マ

 

 

7.地味な同点劇

 

5回は表裏ともに得点なく1点リードを許したまま6回表を迎えた。

先頭バッターは私、ゴメスこと福井。

ランナーに出たいが三振!

しかし、相手キャッチャーこぼしタッチを掻い潜り振り逃げ成功。我ながらカッコ悪い。

この後、バッテリーミスの間に二塁、三塁と順に進み、中尾のピッチャーゴロの間に同点のホームイン!

試合を振り出しに戻す。

あら、ホント超地味ね。

4−4マ

 

 

8.男・臼井

 

6回裏。

最終回の攻撃に繋げたい久野の重要なマウンド。

しかし、臼井のエラーなどで2アウト満塁の絶体絶命のピンチを迎える。

ここで、次のバッターの強いライナーの当たりが一二塁間に飛んだ。

終わった・・

スラの誰もがそう思った打球をファースト臼井が半身の体勢になりながらナイスキャッチ!!

貪欲にボールを追う臼井

エラーを取り返す臼井のファインプレーでいいリズム&いい雰囲気で最終回の表の攻撃を迎えた。

4−4マ

 

 

9.怒涛の最終回

 

7回表、球場管理人の視線が気になる中、先頭の奥村が一二塁間をしぶとく抜くヒットで出塁。

次打者、おくもん四球の後、高木氏セカンドゴロ(本人曰く、「みんなにタイミングを教えた打席。」)も、ランナー帰れず1アウト2塁3塁。

続く道齋の場面で相手ピッチャーのワイルドピッチ。スラ、思わぬ形で勝ち越し点を奪う。

最後は、道齋のライト前ヒット、久野のショートエラー、福井の左中間二塁打、臼井の左中間二塁打と、怒涛の攻撃で畳み掛け、8−4マとなり時間切れ。

まあ4点差もついたということで勝ちを頂くことになった。

久野は緩急をつけ、粘り強く投げ抜いた。感動した!!

 

 

10.エピローグ

 

おくもんの夢が叶い、じいの念願が果たされた。

勝利の余韻に浸りながら、スラナインは帰途についた。

勝利の満腹感の余韻に浸れて、物理的な空腹感を満たしてくれる店は、やはりかつくらしかなかったのであった。

誰か味のIT革命を起こしてくれ。

 

 

スラ  3000014  8

マリナ 100300×  4

 

1.高木(中)  四球  捕ゴ  一ゴ   二ゴ

2.道齋(捕)  右安@ 左直  三ゴ  右安@

3.久野(投)  投飛  三振  三振   遊失

4.福井(遊)  三野選 三ゴ  三振逃 左二@

5.臼井(一)  三ゴ  三振  三振   左二@  盗塁1

6.中尾(左)  三安A 三振  投ゴ@        盗塁1

7.近藤(右)  三振  左安  二飛      

8.奥村(三)  投ゴ  四球  右安        盗塁1

9.おくもん(二)二飛  三振  四球        盗塁1