11/11スラッガーズ対パイレーツ@岡崎 試合レポ

 

 

11月11日は午後から雨が降った。

 

僕はフランス語の授業を終えるとNoriaki(Vipper、ウマ吉)の自転車

に乗り、平安神宮の近くにある岡崎公園へ向う。

 

公園併設の野球場へ入ると香具師たちがキャッチボールを

しながら歓談していた。僕の到着に入口さん(IRI)が気づいて

声をかけてくれた。

 

僕の到着はどうやら遅れていたらしく、急いで試合に備え着替える。

 

そうだ。今日は野球の試合があるのだ。

 

ズボンを脱いでいるとマネージャー(Sakky&Kaoring)が現れた。

 

パンツを見られた!・・・・おそらく。

(こんなことなら、キャプテンに赤のブーメランパンツ借りておけばよかった)

 

僕は着替えると、キャッチボールの相手を探した。

Tomonari(今、一番キテる男。)と目が合った。

僕には言葉は必要ない。

 

キャッチボールをしていると、香具師たちがマネージャーの周りに群がっている。

そんな様子を冷ややかに見る男、So-ichiro(キングオブ香具師)が言った。

「ツッッ!!最近の香具師はすぐこれだ!なにかというとすぐ‘ナニ’したがるな。

フフハハッ!!」

彼の発言や態度はいつもどこかハイスクール時代を思い出させてくれる。

なぜだろう・・・・

 

そんな疑念を抱いていると、スタメンの残り二人(野崎さん、藤本)が来て

試合が始まった。

 

相手はパイレーツ。パイレーツ・・・

心の中に二つの谷間が浮かんだ。いかんいかん!

時はたえず進んでく。時間だって、人間だって、・・・・おっぱいだって

すべて前向きに進んでくんだ!

レトロな雰囲気に浸っている余裕なんてない。

 

煩悩と格闘をしつつも僕は試合開始の整列へ加わる。

 

試合が、始まった。そして雨が降り出した。

 

雨に打たれていると、去年旅した南米でスコールにあったことを思い出す・・・

Barで引っ掛けた女(たしかアニータとか言ったか・・・)と入った安モーテル

のベッド脇の小窓から見た南米の雨。

 

ノスタルジックな気持ちに駆られていると

一回の表が終了した。先発野崎さんがきっちり相手打線を抑えた。

どうも今日の僕は心ここにあらずといった感じだ。

 

次は僕らの攻撃だ。菊さんがたおれた後、Tomonariが四球を選んだ。

雨に打たれ一塁へ向かう姿が艶やかだった。

やはり勢いある男は何をしても輝いて見える。

 

2OUTになり、僕はバッターボックスへ入る、

 

と、突然センターバックスクリーンのはるか上方の空に

眩いばかりの光が見える。

(U・F・O??誰も気づいてないのか?)

目が慣れると、それが「光」ではなく‘物体’(楕円形だったろうか?)

であることが判別された。

‘そこにあってはいけないモノ’を見た気がして不安になった。

 

僕はすぐに気づいた。

 

その‘物体’がメッセージを発していることを。

 

最初の強烈な光の後、‘物体’は二種類の光、少し長く続くものと

パッと光りすぐ消えるもの。不規則に、次々とこれらの光りが発信される

 

モールス信号だ!!!!!!

 

そのひらめきと同時に僕は解読を試みていた。

 

 

「・・・・−メン・・タ・カ・・・ヤス・・・カ・ラ・アゲ・モ・・・ウマ・・イ」

 

 

バシッ!!!!!!

 

白球が高速でキャッチャーのミットに収まる音。

 

審判のストライクコール。

 

バッターアウト。見逃し三振。現実。

 

攻守交替。二回の表。

 

気づくと‘物体’は消えていた。

僕はファーストの守備につきながら、さっき起こった出来事を

頭の中でうまく処理できずにいた。

だいたいメッセージの内容だ!

なんだあれは?

全く意味がわからない。たしかに日本語を構成しているが、

あまりにも唐突。あまりにもその場面に似つかわしくない。

 

そこに意味を創出しようとすること自体が間違っているんだろうか?

 

 

「世の中で起こることの大半は意味のないことだ」

 

 

そういえばアイツはこんなことを言っていたな。

 

アイツ―――二年前旅したインド、僕は外国人旅行者のバックパッカー達が

集まる安宿でアイツ(確かヒトミとかいったか・・・)にあった。

お互い日本人同士ということもあり、僕らが仲良くなるのは自然のことだった。

インドという場所がそうさせたのかもしれない、僕らは宿の屋上に

二人寝そべって、哲学的なことを語り合った。ヒトミは巨乳だった。

乳がデカくても難しいこと考えてんだな、なんて差別的なことを、

そのときは思いながら彼女の話を聞いていた。

 

そうかもしれない。意味なんてないのかもしれない。

 

僕は今野球をしている。そう、野球をしているんだ。自分に言い聞かせた。

 

こちらの打線の沈黙とコントラストをなすように二回以降

相手のパイレーツ打線は盛りの付いたメス猫のようにホット

なっていた。

 

三回の表。相手エラーとTomonariのヒットで俄かに

スラッガーズベンチは盛り上がりをみせていた。

 

ノーアウト二塁一塁、ネクストバッターズサークルでバットを振る野崎さん。

僕は少し前から、彼にどこか言葉では伝えられないような違和感を感じて

いた。というのも‘あの出来事’以来彼のピッチングが急変したからだ。

 

僕は声をかける。

 

「野崎さん、打ってくださいね」

 

「おう。一点とってやるよ」

 

僕は声をかける。つぶやくように。

 

「ところで、‘アレ’見ました?」

 

「ん??」

 

「いえ、が、がんばって・・・」

 

その時

 

バッターボックスへ向かう野崎さんの背中から、いや、

僕の脳内に直接語りかけてくるように、それは聞こえた。

 

「見たよ」

 

野崎さんは、この打席で死球を受けた。

 

謝る相手ピッチャー。「気にすんな」と合図をする野崎さん。そして野崎さんの声。

 

野崎さんの声???

 

そう、それはさっきより、はっきり聞こえた。

 

「ツッッ!イテェなヴォケ!冗談は顔だけにしとけっっ!!!」

 

驚いたことに、この事態に誰も反応を示さない。

どうやら聞こえていたのは僕だけのようだ。

 

僕はようやく気づいた。

 

おれはどうやらさっきから人の心の声が聞こえるらしい

 

動揺した。あのUFOが恐らく原因だろう。

この次の僕の打席、

動揺のせいで中飛にたおれたのは言うまでもない。

 

結局ノーアウト満塁という絶好のチャンスを僕ら

は活かすことができなかった。

 

時間がたつににつれ、この‘能力’の性質がわかってきた。

 

一、思念が大きいほど、大きく聞こえる。

二、女の心は読めない

三、一度に一つの心しか読めない

四、自分の意思により能力が発動する

五、能力を使ったあと、妙な残尿感に襲われる。

 

急に手にしてしまった能力。

 

本来なら人の心を読むという行為は、もしそれが可能と

いうなら不謹慎極まりない、もっとも下劣な行為といえるだろう。

 

でもそのときの僕はそんなことまで思いが及ばず、ただただ、

能力を繰り返し試していた。

 

試合は四回の表、打球がライトへ上がった。

 

ボールが自分の方向へ飛んできていることに気づかない男。Noriaki

 

僕はすかさず彼の心を読む。

 

(うふふ・・・、やはり日曜のエリ女はマイネサマンサを中心に

手広く買うと馬券的ウマ味がでるな。ウマ味、ウマ味・・・・・

‘馬’味か。うふふふっ・・・・こりゃおもれーな。

ん?ってボールおれんとこ来とる!これ捕らな、また・・・・おこら・・・

逆にとりゃー、野球的ウマ味が!ふふっ)

 

ボールは皆の期待とは裏腹に、Noriakiの前にポトリと落下した。

 

「あぁ〜〜」Noriakiの気の抜けた声。

 

(てか雨降ってるで、見えんのだって!つーかまじ、この雨、

日曜の淀大丈夫かぁ?また買い目練りなおさないかんが〜)

 

このような、むしろ微笑ましい心の内なら‘覗き見’しても

気分は悪くならないし、平和な世の中を実感できる。

 

しかし

 

僕はベンチに戻り、この能力の本当の怖さを知る。

 

ベンチに戻るとKitada(ラーメン、カラアゲ、肉まん、ピザ)が来ていた。

 

そう、僕はこの男の心から、人間の深淵を、自然世界において

決して知ってはならない人間の真実を、知ってしまうのだ。

 

ここに記すのは僕が聞いたすべてである。

 

(ふぅ、ふぅ、肉汁ハァハァハァ・・・・・。モウガマンデキナイヨ・・・・・・・・・・・・

焼き豚から溢れ出す、いや、溢れんばかりの肉汁!ピザを食べてモッツァレラチーズ

の海で溺れて、最後は高安にいって、カラアゲとラーメンとライスを食べよう・・・

肉汁ハァハァハァハァーーーー!!!!!!!)

 

そこには、彼の肉汁への切なる願い、欲望が満ち満ちていた。

 

背筋が凍りついた。

 

と、球場に響き渡る金属音。

 

菊さんがセンターを抜く三塁打を放った。

すでに点差は10点以上ついていたが、なんとか

一矢報いようよいう機運がベンチ内に生まれていた。

 

二死後、右バッターボックスにたつ僕。

 

センターバックスクリーン上にはUFO。

 

そっと瞳をとじて、開く。

 

やはりUFOはそこにある。

 

「消えてくれ」

 

念じた。

 

まるで無視するように、モールス信号。

 

「ミ・ヤ・ガ・ワ・イ・チ・ロ・ウ・タ」

 

 

バシッ!!!!!!

 

デジャヴ?

 

見逃し三振。これも現実。

 

僕は泣いた。そして試合は終わった。

 

試合が終わっても消えることのない能力。僕は

自分以外にもおよそ人間が持ち得ない能力をもった人

がいるんじゃないだろうかと思った。

 

そして‘能力者’の可能性が高い一人の男に目星をつけた。

 

itada

 

試合後、トイレにいる彼に問いかけた。

 

「おまえ、ラーメンのこと、好きだろ?」

 

「えっ?なんスか急に・・・」

 

「隠さなくてもいいよ。見てりゃわかる」

 

「まぁ・・・、はい・・・好きっス。でもなんでわかったんスか?

確かに、ラーメンのこと狙ってそうな奴は多いけど・・・」

 

「あのな・・・、確かにみんなラーメンのことはどっかで気になって

るよ。でもお前だけだぜ、ラーメンと一緒にカラアゲを注文し、一口

食べた後、ラーメンの汁に浸して食う奴は」

 

「そういえば・・・」

 

「俺が相談に乗ってやるよ。ラーメンとは中学のころから知り合い

だし。醤油ベースの奴よりとんこつベースの奴が好きだとか、いろんなこと

知ってるからよ。ちなみにお前のダシは?」

 

「醤油ベースっス・・・・」

 

「そっか。まぁ気にすんな。今日ガラ割るの手伝ってやるからよ。

それに、おまえ焼き豚くいすぎだぜ。それは直さないと」

 

「先輩・・・・ううっ・・・」

 

「泣くな。さあ、カラアゲでも食いに行くか!」

 

 

完。

 

 

 

スラッガーズ0−18パイレーツ

 

一番ライト    菊さん    遊ゴ 三失 中三

 

二番キャッチャー 新村     四球 左安  →久野 一飛

 

三番ピッチャー  野崎さん   三邪飛 死球 左飛   

 

四番ショート   小山田    三振 中飛 三振 

 

五番サード    平松     遊ゴ 三ゴ  →北田 三振(振り逃げ)

 

六番ファースト  中尾     四球 遊飛  →入口さん 四球

 

七番センター   堀川     二ゴ 投失  →渡辺 二ゴ

 

八番ライト    近藤     投飛  →佐藤 投ゴ 投ゴ

 

九番セカンド   藤本     投飛  →道斎 三振 三ゴ

 

 

追記 登場人物が少なくなってしまい、申し訳ない。あまりに内容のない

   試合になってしまったので、プラスアルファをかなり誇張して、というか

   得意の妄想で大部分をカバーすることになってしまった。今日このレポートを

   上梓するにあたって尽力してくださった有斐閣の久野氏、平松氏、堀川氏、

   佐藤氏、臼井氏、にはこころより感謝申し上げる。また、Kitada氏には名誉毀損で

   訴える事なきようお願いしたい。