奥平少年の事件簿〜地獄のパイレーツ〜

 

(前回までのあらすじ)

西宮市民公園で鉄棒の逆上がりの猛特訓をしていた奥平少年は喉の渇きを癒す為、自動販売機を探して西へ歩き始めた。チェリオの自動販売機を無我夢中で探す奥平少年は気づかないうちに神戸市内に出てしまっていたのだ!!どうする、家に帰れるのか!?奥平少年!!

 

「おい、お前、何しているんだ!」

しわがれた声の大男が奥平少年に声を浴びせかける。奥平少年は見知らぬ男に声をかけられたことで、それよりもその男の体躯に身構えた。

「なんすか、ボク、自販機探してるんすよ」

「お前、学校はどうした!?そんな思想丸出しのTシャツなんか着やがって!お父さんとお母さんはいないのか」

奥平少年はこの時Your body is battlegroundと高らかに宣言したTシャツを着込んでいた。

「いや、ボクは・・・・・・・」

「怪しいやつめ!お前、ちゃんと義務教育を受けないか!!しょっぴいてくれる!!」

こうして、奥平少年は剣持警部の手により、西宮市民球場という名の陸の孤島へ送り込まれることとなった。あの凄惨な事件が起こることなどこの時、奥平少年は知る由もなかった・・・・・・・・・・

 

(登場人物紹介)

1番・センター ひろし

彼がセンターにつくといるはずのない女の声で「バッチ打ってこいや〜!」と聞こえてくるという。今回の事件と何か関係があるのだろうか?

 

2番・ショート ドサーイ

語尾に「〜でござる」と付ける侍野郎Aチーム。就寝前はアガサ・クリスティーの「ナイルに死す」を枕元に置く事を忘れない。彼のスリーピングメッセージは奥平少年に伝わるのか!?

 

3番・キャッチャー ゴメス

恋するはにかみをこよなく愛する残念な助っ人外国人。サーキットしかない街が彼の心をアスファルトにしてしまった。

 

4番・ライト 菊さん

ユニフォームのボタンが殆ど取れている公然わいせつ罪野郎。今回の事件の犯人かどうかという以前に別件逮捕できる。叩けば埃が出るとはこのことである。

 

5番・ファースト うっすん

ここだけの話、今回の事件の犯人。爽やかな笑顔が売りのファッションリーダー。

 

6番・ピッチャー ZAZEN BOY今井

「♪MUGA MUGA MUGA 座禅でMUGA」無我の境地を高らかに訴える僧侶。打球をヨガスルーした者にはヨガフレイムというお灸が待っている。

 

7番・サード 村尾

前日、「今、会いにゆきます」を見たが何の心のブレもなかったABOY。打席での独り言が多く、周囲を不安に陥れる。「いや、それはないやろ」が口癖。

 

8番・レフト OZAKI(小川)

奥平少年の保護者。かよわき大人の代弁者に歯向かったり、盗んだバイクで走り出したり、ムシキングでヘラクレスオオカブトを育てたり、そんな日常。

 

9番・セカンド 奥平少年

本編の主人公であり、被害者。いつもはハーフパンツ派の彼も今日は衣替え。気象庁は奥平少年のハーフパンツ明けを発表した。

 

 

プロローグ〜パイレーツ伝説〜

わしのおじいちゃんのそのまたおじいちゃんのおじいちゃんの頃の話じゃ。その頃は今みてぇーにここは開かれた土地じゃなかった。細々と地主から与えられた土地を耕し、その日を生きるのが精一杯じゃった。おまーらには想像もつかん生活じゃ。

瀬戸内には昔っから海賊がおった。早い潮流をするするとくぐってあっちゅう間に船に乗っている人間を皆殺し、載せた荷物を略奪していくんじゃ。これには役人も手を焼いておった。奴らときたら潮の流れを知り尽くしておって、追い詰めたつもりでもいつの間にか潮の流れに上手く乗って逃げてしまうんじゃ。

その頃、瀬戸内の海賊をまとめている首領―――名前は伝わっておらん―――がおった。その首領にはお宮という思いを寄せたオナゴがおった。お宮はわしらが住んでおる西宮のそうじゃ、今の西宮市民球場あたりの村に住んでいるオナゴじゃった。元々、その首領の出身がその村だったようじゃな。瀬戸内の船乗りを震え上がらせる男もお宮には優しかった。お宮はその男が海賊だなんて思いもよらなんだろう。二人は逢瀬を重ね、愛を誓い合った。

ある日、男がその村に向かうと、村のいたるところから火の手が上がっておるではないか。男はお宮の家に走った。お宮の家はすでに大きな火を上げておった。男はお宮の名を叫びながら、家の中に飛び込んでいった。

悲惨な光景じゃった。

最早、お宮は人間とは思えぬ有様になっておった。男はお宮の亡骸を抱きしめながら、おいおいと泣いた。

そして、直感したんじゃ。

自分を恐れる役人達がこの罪のない村人達を自分の仲間として惨殺したのだと。

許すわけにはいかない・・・・・・・・お宮をこんな姿をした人間、そしてお宮を守れなかった自分を―――男の頭から角が生え眼からは赤い涙が流れた。男は鬼になったんじゃ。

 

その後、瀬戸内から海賊は消えた。男はどこに行ったかはわからん。そして、その村はもともと無かったものとされ、誰もがその存在すら忘れていったんじゃ・・・・・・・・・・・

 

第一話「発狂ナイン」

「さて、着いたぞ、坊主」

「ここ、どこすか?」

「西宮市民球場」

ぶっきらぼうに剣持は言い捨てた。

 

奥平少年は義務教育の一環として、大学生の野球チームに混じって野球をする羽目となってしまった。どうやら剣持という男は見た目どおり昔気質のようだ。「健全な体には健全な魂が宿る」という理念なのだろうか。

奥平少年は突然見知らぬ人間の中に放り込まれ、戸惑っていた。

「あ、あのぅボクどうすればいいんすか?」

「セカンドしやんの?」

180を超えるであろう巨躯の持ち主はベースのような重低音で返事をした。奇妙な方言である。どこの出身であろうか?(恐らくサーキットとパルケ・プゲラーニャしかないあの県であろう)

「ボク、セカンド無理っスよ。センター行っていいすか?」

「そこは俺の定位置だって」

女の子のような高音。何故かスーツ姿の男はそう言った。髪の毛が片目にかかり、少しキザっぽいしゃべり方である。

「そーそー。大人しくシェカンドの守備に着けよ。ほんっとじじぃちゅかえねぇ」

この男の声もやたらと高い。サ・ス・ソの発音がシャ・シュ・ショに聞こえてしまう。

「いやぁ〜、ほんっとシュトレッチって重要よねぇー」

言いながらその男は煙草を吹かしながらアキレス腱を伸ばしている。やる気があるのか無いのか。

「セカンドつくんはええけど、そらしたら法話な」

髪を剃りあげた坊主の男(本当に坊主なのだが)がそう言うと周囲の人間にも緊張が走る。

「ニチェボ(なんてこった)!!」

明らかに日本人ではない男。服から大量の胸毛がはみ出しており、今にもパイルドライバーをかけてこんばかりの迫力だ。

「いやぁ〜、それはないやろ」

「アキバ系」と書かれた痛いジャージを着た男がその外国人に向かって言う。服でアピールしなくても「アキバ系

」とわかる男である。

「俺はいつもこんなんだっつーの」

どう見ても子持ちの父親にしか見えない男が、寡黙な男に絡んでいる。酒は百薬の長であるが絡み酒は困りものである。

 

結局、奥平少年は有耶無耶のうちにセカンドの守備をさせられることとなった・・・・・・・・・・・

第二話「第一の殺人」

1回表

奥平少年は打順が9番ということで審判をさせられることとなった。

「ボク、どんなボール来てもボールとしかいわないっすよ

彼は有言実行の男であった。

2番ドサーイが追い込まれた後ハーフスイングをし、自ら観念して打席からベンチへ戻ろうとした時、奥平少年は宣告した。

「ボール!!っすよ」

野球の法則が乱れる!!

 

ネオエクスデス並みに法則を乱し、これ以降のジャッジが乱れたのは言うまでもない。

 

1回裏

なんかヒット的なナニカ?とかよく覚えていないサムシングで1点を取られる。

 

2回表

ZAZEN BOYの三塁打で1アウト三塁のチャンス。ここでバッター、無駄尾。

コーチ・児玉清氏もGOサイン

ランナーコーチの神埼代表もGOサイン

 

果敢に初球をヒッティング。無駄尾お得意の三塁に転がるボテボテのゴロ。

ランナーコーチは「いかんざき!」とストップをかける。

 

しかし、ZAZEN BOY、ダイヤモンドを輪廻すべく、ホームへつっこむ!!が・・・・・・

相手ピッチャーの見事なキャッチング&トスで挟まれる。ここで諦めが肝心(ピッチングに響くといけないと)とそれほど粘らずにアウト。そして、2塁に走塁していた無駄尾もアウト。最悪の形でチャンスを潰してしまう。ほんま、すいません。

 

2回裏

サードの平凡なゴロを無駄尾がキャッチするもヨガ送球ミス!!

その時、衆人監視であったにも関わらず、事件は起こった。

「うわぁぁぁ!!」

↑ミスした者に容赦なく制裁を加えるZAZEN BOY謎の犯人。

 

突然、燃え上がる無駄尾の体・・・・・・・・・それはまるで「パイレーツ伝説」の悲劇のヒロイン・お宮さながらであった・・・・・・

この時、奥平少年はこれが悲劇の序章に過ぎないことを知る由もなかった。

 

第二話「第二の殺人」

しかし、なんとかその回は今井氏の好投で無失点で切り抜け、3回表

四球で出塁したムシキング。相手ピッチャーのワイルドピッチで2塁まで進む。が、奥平少年はショートゴロに倒れる。

バッターはヒロシ。2塁に力なくゴロを打たされるも相手二塁手がまさかのエラー!!恐らくヒロシのセイレーンのような声に惑わされたのだろう。逸れた打球はなんとランナーコーチをしていた今井氏の頭に直撃。今井氏、ボンバヘッ!

その間にムシキングが羽音を立てながらホームへ生還し、同点!ボンバヘッ!

 

3回裏

痛烈な打球が一塁を襲うもザンギエフ臼井、ナイスキャッチ!!彼は来世も人として輪廻することを約束された。堅い守備(一部脆い)と今井氏のナイス過ぎるピッチングで無失点。

 

4回表

四球1個だけで終わったッス

4回裏

今まで打球が飛んでこなかった奥平少年の元に打球が・・・・・・・・しかし、奥平少年ヨガスルー!!ドサーイがナイスカバーも間に合わず。その時(以下同文)

↑燃え上がる主人公。ヨガワロスwww

 

謎を解け!!奥平少年!悪が滅びるその日まで!!(第一部・完)  今までご愛読ありがとうございました

むらたまご先生の作品が読めるのはスラッガーズだけ!

 

 

第一話「奥平少年は2度死ぬ」

なんだかんだ叫んだって今井氏が相手をキリキリマイさせ、無失点。

 

5回表

・・・・・・・・・・・・・

 

5回裏

相手の4番打者(どう考えてもガタイがおかしかった)に2塁打を打たれ1アウト、一塁、3塁のピンチに・・・・・・・

バッターの打球はライトにライナーで飛んでいく。これはやばい、落ちる!!と誰もが思ったその時!上半身裸の男がナイスキャッチ!!ただ猥褻なだけの男ではなかった!!さらに1塁ランナーが飛び出しているのを見て一塁に送球!!するもこれが逸れ、1点を失ってしまう。

 

6回表

ドサーイがナイスヒットを打つもボンバヘッ!

 

6回裏

今井氏が腕を振りかぶった瞬間、帽子が外れ

相手バッターは失明、相手ベンチは爆笑。この時点で笑いの面では勝利したことをサードの村尾とキャッチャーの福井は感じていたという。相手を太陽拳でキリキリマイケルにし、難なく2アウトを取る。

 

ここで誰もが予想だにしなかった事件が・・・・・・・

相手バッターが放ったボールは一塁へ転がる。すかさず飛び出すうっすん。そして一塁のカバーに行くセカンド・奥平少年。そして、それは起こった。

 

ザンギエフ謎の犯人にランナーと共に殺される奥平少年

 

一塁カバーに入ったはずの奥平少年はザンギエフと交錯した途端、無残な姿をグラウンドに晒すこととなった。それはさながら「パイレーツ伝説」の悲劇のヒロインお宮のようであった・・・・・・・・・

 

奥平少年が衆人環視の元、惨殺されたというこの2つの不可能犯罪を奥平少年は解けるのか!?

 

謎を解け!!奥平少年!悪が滅びるその日まで!!(第二部・完)  今までご愛読ありがとうございました

むらたまご先生の作品が読めるのはスラッガーズだけ!

 

 

 1

 2

 3 

 4

 5

 6

 7

結果 

スラ

 0

 0

 1

 0 

 0 

 0

 0

 1

パイレ

 1

 0

 0

 0

 1

 0

 

 2

 

1ヒロシ

三振

三失

三ゴ(五回)

一ゴ(試合終了)

2ドサーイ

四球

左飛

中安

 

3福井

中飛

遊ゴ(三回)

三ゴ

 

4菊さん

三失(一回)

捕邪飛

三振

 

5うっすん

三振

四球

三振(六回)

 

6今井

右三塁

一ゴ

二ゴ

 

7村尾

投ゴ(二回)

投ゴ(四回)

三失

 

8小川

四球

中飛

三振

 

9奥平

遊ゴ

三振

四球

 

 

 

作者あとがき

試合後、時間が余ったということでパイレの皆さんが「試合形式で練習しませんか」と言ってくださいました。正直、熱いと思いました。ありがとうございます!ま、練習でもみんな打ててませんでしたorz

 

相手チームも正直、ヒットは3本ぐらいだったと思うのですが守備力の差ですかねぇ。投手の為にもっと打ちましょう!!

 

そして、今回痛感したことは「良いエラー」と「悪いエラー」というのがあるということです。言葉としては矛盾を感じるかもしれませんが。

例えば、5回裏に菊さんが一塁ランナーを殺そうとして送球をミスったというエラーは結果として1点を失うきっかけになってしまいましたが「良いエラー」だと思うのです。アウトを取るためにした前向きなプレーが結果としてエラーとなったからです。

逆に悪いエラーは2回裏の村尾の送球ミス。あれでもし今井さんがふんばってくれなければかなり嫌な雰囲気になるところでした。

別に「エラーしてもいい」というわけではありません。前向きにプレーをすればエラーをしても立て直せる、ということです。勿論、エラーをしないにこしたことはないですが。全員が意識を持って野球をしようぜということ。そしたら勝てます。多分ね。

 

新連載!!ニュータイプ官能小説「チャリの流刑地

激しい試合に敗北した後、傷心の村尾菊治を待っていたのは愛車を置いていた場所に張ってあった「自転車撤去」という文字であった。